「野生生物と社会」学会 野生動物管理教育認証制度ワーキングループ最終報告
ワーキンググループの目的
日本学術会議の「人口縮小社会における野生動物管理のあり方に関する検討会」の提言に基づき、野生生物の科学的管理を担う専門人材の育成および地方自治体等への配置を進めるため、「野生生物と社会」学会が野生動物管理教育及び認証制度に果たす役割を検討する。
ワーキンググループのメンバー
伊吾田宏正、宇野裕之、江成広斗、梶光一、小寺祐二、鈴木正嗣、丸山哲也、横山真弓、吉田正人(座長)
検討経緯
| 2021年12月11日 | 第1回認証制度ワーキングループ |
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| 2022年4月18日 | 第2回認証制度ワーキングループ |
ゲストに野生動物保護管理事務所の大西勝博氏、知床自然大学院大学設立財団の中川元氏をお招きし、北米の野生動物管理認証制度、知床のリカレント教育についてお話を伺った。
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| 2022年5月22日 | 「野生生物と社会」学会理事会に中間とりまとめを報告 |
| 2022年10月29日 | 「野生生物と社会」学会・北海道江別大会においてテーマセッション |
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| 2023年10月19日 | 第1回野生動物管理教育プログラムの実装に向けた意見交換会 |
| 2024年3月13日 | 第2回野生動物管理教育プログラムの実装に向けた意見交換会 |
| 2024年7月31日 | 第3回野生動物管理教育プログラムの実装に向けた意見交換会 |
| 2024年12月13日 | 「野生生物と社会」学会理事会に意見交換会の経緯を報告 |
| 2025年5月19日 | 野生動物管理教育プログラムに関する農水省・環境省と意見交換会 |
| 2025年5月20日 | 「野生生物と社会」学会理事会に意見交換会の経緯を報告 |
| 2025年7月10日 | 「野生生物と社会」誌に野生動物管理教育に関する特集論文掲載 (https://www.jstage.jst.go.jp/browse/awhswhs/13/0/_contents/-char/ja) |
| 2025年8月12日 | 第3回認証制度ワーキンググループ |
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| 2025年12月2日 | 第4回認証制度ワーキンググループ |
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検討内容と課題
1、野生動物管理教育における大学、学会、行政の役割
野生生物の科学的管理を担う専門人材の育成および地方自治体等への配置は急務であり、大学、学会、行政が協力して進めてゆく必要がある。
- 大学は、野生動物管理に関するカリキュラムを通じて、野生動物保護管理に必要な知識、技能、倫理等を習得させる。大学における野生動物管理教育の水準を保つため、教員が教育を行うためのガイドラインを示したコアカリキュラムを定め、それに基づいた大学独自のシラバスを策定する。2025年現在、東京農工大学、岐阜大学、酪農学園大学、山形大学の4大学において、19科目のコアカリキュラムを提供し、15単位を取得することで修了認定を行う体制整備を進めている(表1)。2027年度には5大学に拡張予定であり、2027年度末には最初の修了者が出る予定である。現段階では、コアカリキュラムを全て提供できる大学と一部のみを提供できる大学があるため、大学間の単位互換の協定を推進している。
- 認証は教育の質を保障するものであり、大学のコアカリキュラムを履修した者を対象に質の保証を行うための認証と大学のコアカリキュラムの質の保証に関する認証に分けられる。大学のコアカリキュラムの修了者を対象とした認証は個々の大学が行い、コアカリキュラムの質の保証に関する認証は大学とは独立した学会等が行うことがふさわしい。
- 行政は、野生動物管理の重要性に鑑み、野生動物管理教育及び認証制度を支援するとともに、野生動物管理に関する専門的な教育を受けた者、認証を受けた者を採用するよう努めること、委託事業の入札の際に認証を受けた専門家を雇用する会社に加点するような仕組みの検討が期待される。
2、野生動物管理教育の認証制度について
認証制度については、米国の野生生物協会TWSの制度 が参考となるが、日本の現状に合わせた制度設計にする必要がある。
- 資格試験を実施して知識・技能をチェックするのは認証機関にとってはたいへん大きな負担である。また、単位を全て取得した段階で申請するとなると、審査及び認証は大学卒業後となってしまうため、就職活動に間に合わないという課題が残る。そのため、履修生が所属する大学が、自らの大学で取得した単位、ならびに他大学で取得した単位の認定を行った上で、コアカリキュラムの修了認定を行うことが現実的である。
- 将来的に野生動物管理教育の認証制度は、大学等の教育機関でコアカリキュラムの単位取得をした段階(仮称:准管理士)と社会での実務経験を経た段階(仮称:管理士)の2段階とすることで、野生動物管理者の裾野を広げると同時に、野生動物管理の実務経験を経て専門家として次のステップに踏み出すインセンティブにもなる。それには、今後、実務経験を経た人材の知識・技能などを評価するプロセスや認証機関の検討が課題として残る。
3、野生動物管理教育における本学会の役割
本学会が、野生動物管理教育の中で求められる役割を果たすとすればどのような条件が必要か。
- 担当理事による対応では限界があるため、本学会に常設の部会を設置し、各大学のカリキュラムが野生生物管理教育のコアカリキュラムとして必要十分なものであるか、求められる野生動物管理の質を保証するものであるかを検証するとともに、時代の変化に合わせたカリキュラムの変更等に関する提言を行う。
- 常設の部会の代表が、農林水産省・環境省・関係大学等との意見交換会に出席し、野生動物管理教育を履修した者が野生動物管理の専門家として採用され配置され、また野生動物管理の実務経験を経た段階での認証制度が確立されるよう、学会としての意見を述べる。
1 米国野生生物協会(The Wildlife Society)の認証制度は、教育機関において野生動物管理に必要な科目を習得し、倫理を身につけた者を認証するAWB(Associate Wildlife Biologist)と野生動物とその生息地の保全管理に必要な生態学に基づいた科学的知識を習得し専門性と倫理を身につけた者を認証するCWB(Certified Wildlife Biologist)の2段階に分かれている。AWB認証者が、CWBの認証を受けるためには、AWB認証後10年以内に5年以上の実務を経験することが求められる。2025年現在、600人がAWB認証、1800人がCWB認証を受け、うち35人が空港においてバードストライクを防ぐQAWB(Qualified Airport Wildlife Biologist)の認証を受けている。
4、残された課題
- 野生動物管理に関する人材の育成、配置は急務であり、野生動物管理に関するコアカリキュラム、それを習得した者に対する認証制度の重要性は誰もが認識するところである。しかし、野生動物管理に関するコアカリキュラムに基づく教育や修了認証制度ができたとしても、地方自治体が野生動物管理に関する教育や修了認証を受けた者を採用し配置しなければ、教育制度、認証制度が意味をなさなくなる。地方自治体が主体的に、野生動物管理を総合的にコーディネートできる専門的人材の配置を進める必要があり、農水省や環境省からの更なる後押しが求められる。
- すでに野生動物管理の現場で活動している者へのリカレント教育の実施、実務経験を経た者の知識・技能を評価するプロセスや認証制度の検討が、引き続き求められる。これらのリカレント教育、実務者の知識・技能の評価については、すでに野生動物管理教育、認証等を実施している諸団体、農林水産省・環境省とともに検討を進める必要がある。
- すでに技術士に対して導入されているように、修了認証を受けた専門家を雇用する民間企業に対して、入札の際に加点するような仕組みの検討が望まれる。修了認証を受けた者が、自治体以外の民間企業などにも採用されるよう、カリキュラムの幅を、希少野生生物、外来生物などにも広げることについての検討も求められる。
- 野生動物管理教育のコアカリキュラムの修了認証を受けた者が、自治体等に野生生物の専門家として雇用されるための財源確保 について、国会等への働きかけの検討が求められる。また地方自治体において、野生動物管理を総合的にコーディネートできる専門的人材の配置の必要性について、有権者や都道府県議会等に理解してもらえるよう働きかけが求められる。
2 米国では1937年に採択されたPittman-Robertson Federal Aid in Wildlife Restoration Actによる銃、弾丸、弓の購入に対する11%の課税をもとに、2025年度は7億5千万USドル(約1162億円)が各州の野生生物保全・回復プロジェクトに配分され、その中から専門的人材雇用の財源が確保されている。
表1.野生動物管理学教育コア・カリキュラム
| 科目群 | 科目名 | 学修項目数 | 単位数 |
| 野生動物管理学 | 野生動物保全管理学 | 7 | 1.0 |
| 野生動物被害管理学 | 7 | 1.0 | |
| 不動化技術 | 11 | 1.5 | |
| 捕獲技術(わなと猟銃) | |||
| 野生動物感染症学 | 4 | 0.5 | |
| 野外活動技術 | 3 | 0.5 | |
| 捕獲に関わる制度と倫理 | 3 | 0.5 | |
| 形態・生理学的解析技術 | 4 | 0.5 | |
| 生態学 | 生態学 | 8 | 1.0 |
| 造林・植生学 | 生態学 | 9 | 1.0 |
| 政策、管理及び法律 | 自然保護と自然資源管理 | 6 | 1.0 |
| 鳥獣・環境関連法規・政策 | 8 | 1.0 | |
| 農林業被害対策関連法・政策 | |||
| 生物多様性と希少種の保全 | 5 | 1.0 | |
| 人口問題と地方自治論 | 3 | 0.5 | |
| 農村における土地利用・コミュニティ計画論 | 3 | 1.0 | |
| 定量科学 | 行動モニタリング手法 | 6 | 2.0 |
| 地理情報システム(GIS)とリモートセンシング | |||
| コミュニケーション | 住民参加型計画立案演習 | 5 | 1.0 |
| 合 計 | 19科目 | 92学修項目 | 15.0単位 |