【要旨】大会企画テーマセッション(大会TS)

大会開催案内 最終版(pdf書類44ページ)(2013/11/18)

  • 大会TS1
     11月30日(土)9:00~11:00 丹南健康福祉センター研修室
     「野生動物の捕獲体制を考える―伝統狩猟と管理捕獲の役割―」
      オーガナイザー:横山 真弓(兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センター)
  • 大会TS2
     12月01日(日)9:00~11:00 丹南健康福祉センター研修室
     「野生生物保全・管理の法と政策」
      オーガナイザー:上田 剛平(兵庫県但馬県民局朝来農林振興事務所)
  • 大会TS3
      12月01日(日)11:15~13:15 丹南健康福祉センター研修室
     「野生生物問題と地域社会との連携―集落・行政との連携事例―」
      オーガナイザー:山端 直人(三重県農業研究所)

大会TS1
野生動物の捕獲体制を考える―伝統狩猟と管理捕獲の役割―
Role of the traditional hunting and culling in the Japanese wildlife management system

オーガナイザー 横山 真弓
YOKOYAMA, Mayumi

キーワード: 狩猟者、専門的捕獲者、個体数調整、鳥獣害

1.テーマセッションの趣旨

 ニホンジカやイノシシの急激な個体数の増加とそれに伴う甚大な被害、あるいは都市部に侵入する大型獣に対処するため、捕獲の社会的な役割が大きくなってきている。鳥獣の捕獲には、地域の地形、鳥獣の生態や行動、鳥獣の特性や捕獲技術を熟知している必要があり、さらに法令順守と安全管理が求められる。そのため、だれでも対応できるものではなく、また技術習得に時間を要するものである。
 そのため、被害防除のための捕獲が必要になったとしても、従来からの体制としてある伝統狩猟もしくはスポーツハンティングを行う狩猟者にボランティア的に頼らざるを得ない現状にあり、趣味的な活動を行っている狩猟者に大きな負担を強いている状況にある。本来、野生動物を適切に管理していくためには、狩猟者が担うべき役割のほかに、計画的・戦略的に捕獲を行っていく管理捕獲の体制と技術の役割が必要である。しかし、現状ではそのような仕組みはほとんどなく、現在の野生動物管理の現場では、伝統狩猟と管理捕獲の位置づけが不明瞭なまま、捕獲事業が先行しており、様々な課題が噴出してきている。
 本企画集会では、これらの混乱のもととなっている伝統狩猟と管理捕獲に関する情報を整理し、これからの日本の野生動物保全管理の適正化を図るためには、どのような考え方と体制が必要であるか議論を行う。

2.各発表内容の要旨

(1)「管理捕獲を巡る法制度のあり方の総合的検討」

高橋満彦 富山大学 高橋満彦(富山大学)

 狭義の「狩猟」と「管理捕獲」は、現行法制度の下では明瞭には区別しがたい。狩猟法では、「狩猟」と「有害捕獲(許可捕獲)」の別はあるが、「有害捕獲」でも「狩猟」に準じた規制を受け、中途半端なものになっている。例えば、公益目的が強い捕獲であっても、従事者は私的なスポーツをしているのとほぼ同様な扱いがなされていたりしている。発表者は、現在の法制度は、狩猟者が猟友会を通じて地域社会で果たしている役割を正当に認知していないと考えている。それは、地域における狩猟者の慣習的な立場への無理解から来ている。狩猟者の法的位置づけも、明治中期の帝国議会では活発に議論されたものの、確たる結論が示されないまま、慣習に委ねて今日に至っている。しかし、中山間地の過疎高齢化は、慣習への依存を困難にしており、現在環境省の審議会の場では、狩猟・捕獲法制度の再検討も議論されているようである。このような現状を踏まえて、発表者は、漁業調整制度なども参考にしながら、猟区制度の利活用、管理計画の実質化、土地権利者の管理捕獲への協力義務、目的別の免許制度の検討なども含んだ総合的な狩猟及び管理捕獲の法制度を考察したい。

(2)管理捕獲のミニマムスタンダード〜カワウ個体数管理の現場から

須藤明子 ((株)イーグレットオフィス)

 カワウの個体数管理の成功事例は世界的にもほとんどなく,無計画な捕獲がコロニーやねぐらを撹乱し,新たな生息場所を増やして個体数も被害も増加させてきたとされている。滋賀県琵琶湖ならびに岐阜県飛騨川流域では,従来のアマチュア狩猟者(ハンター)による捕獲体制を見直し,専門的・職能的捕獲技術者(カラー)による捕獲体制(シャープシューティング)を整備して,科学的根拠に基づく計画的捕獲を実施したところ,個体数削減と被害軽減に成功し,カワウ管理においてカラーが重要な役割をもつことが明らかにされつつある。
 適正を持つ人材で構成された少数精鋭の捕獲体制,ならびにカラーと行政のチームワークが成功の秘訣である。手技手法のみが注目され,マニュアル化を望む声も多い。しかし,カワウに限らず野生動物と対峙する上で,全てのシチュエーションは唯一無二といえる。必要なのはマニュアルではなく,オリジナルに対応する技能と力量である。

(3)適次世代の狩猟者教育と資格制度への展望

伊吾田宏正(酪農学園大学)

 エゾシカの農林業被害額は年間60 億円を越え、自然植生へのインパクトや交通事故も深刻である。エゾ シカの持続的資源管理の構築のためには、狩猟者育成や鹿肉消費拡大がキーとなる。道では今年度エゾシカ条例を制定する予定だが、野生動物管理の担い手育成について、どこまで具体的に踏み込むかが注目される。一方、イギリスでは、多数の関係機関が連携して、食肉衛生も含むシカ類の捕獲および管理についての資格制度が発展してきており、資源管理のガイドラインもリンクしている。今後北海道では、エゾシカだけでなく、ヒグマなどの野生動物全般に対応できる包括的な野生動物管理システムおよび人材育成が課題となる。その中で、一般狩猟者・上級狩猟者・野生動物管理者の役割分担を明確にした育成および資格制度の創設が必要である。

3.コメンテーター

  • 八代田 千鶴 (独立行政法人 森林総合研究所)
  • 鈴木 正嗣 (岐阜大学)


兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センター



大会TS2
野生生物保全・管理の法と政策
Law and policy for wildlife conservation and management

オーガナイザー 上田 剛平
UEDA, Gouhei

キーワード:鳥獣保護法、種の保存法、土地所有者、狩猟権、政策評価

1.テーマセッションの趣旨

 野生生物の保全と管理を効率的・効果的に実行するためには、法と政策が不可欠である。法は、行政府が取り組むべき課題と目指すべき方向性を政治的手続きにより明文化し、解決のための公的資金の投入を正当化する枠組みである。政策は課題解決に向けた方針を具現化し、様々な施策とその実行手段である事業によって構成される、いわば課題解決のためのツールの総称である。
 法と政策が、現場で起きている様々な問題を網羅し、的を得たものでなければ、課題解決は困難を伴う。この問題を議論するには、法や政策の意思決定プロセス、政策の実行プロセス、行政サービスを受ける市民側の解決行動プロセスなど、様々なスケールでの検討が必要である。そこで本企画では、「野生生物と社会」学会将来構想で示された学会としての今後10 年間の方向性を踏まえ、より現場に近い視点に立った法や政策に関する研究や事例を4 つ紹介する。

2.各発表内容の要旨

(1)野生生物行政の将来と課題~改正・種の保存法を中心として~

草刈秀紀(WWFジャパン)

 本年6月、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4 年6 月5 日法律第75 号)(以下、種の保存法)が21 年ぶりに改正された。改正法の問題点について各団体(WWFジャパン、日本自然保護協会、日本野鳥の会など)と共に、国会議員への説明資料や要望書を作成し与野党議員へのロビー活動を展開した。また、日本生態学会、日本哺乳類学会、日本植物分類学会など各学会からも意見書が環境省へ提出され、更に、第二東京弁護士会からも法律改正に関する提言が出された。NGO、学会、法曹界から相次いで問題点が指摘され、与党に対するロビー活動の結果、環境省は、2020 年までに絶滅危惧種ⅠA 類の中から300 種を指定し、更に2030 年まで300 種の指定を追加する方針や3年後に法律を見直す規定を法案に盛り込むことなどを約束した。国会における種の保存法の改正内容や議論のポイント、今後の種の指定の基準とそのあり方、絶滅の恐れのある野生生物の保全戦略の意義について課題を提供する。

(2)適正な野生動物管理に求められる法制度とは

坂田宏志(兵庫県立大学)

 全国的に野生動物による被害が増加し、被害対策が進むなか、法制度も大きな転換期を迎えている。中央環境審議会においても鳥獣保護管理のあり方検討小委員会で、これからの野生動物管理にふさわしい法制度のあり方ついての議論が進められている。その議論を踏まえ、11 月半ばから12 月半ばには、「鳥獣の保護および狩猟の適正化につき講ずべき措置について」の答申書案が公表され、パブリックコメントが募集される予定である。現在の小委員会における議論を紹介しながら、求められる法制度や野生動物管理のあり方について議論する。

(3)土地所有者の義務と狩猟者のアクセス権を考える―ペンシルバニア州を事例として

神山智美(九州国際大学)

 米国においては、狩猟者は野生生物の保全者として位置付けられており、狩猟する権利も魚釣りを楽しむ権利と同様に、社会的にその存在が認知されている。とはいえ、狩猟者と、狩猟者が狩猟を実施する土地所有者との間には、その土地利用のあり方や狩猟の安全性、狩猟者のマナー等に関して、常に緊張感がある。彼らは、狩猟者コミュニティ、土地所有者コミュニティをというものをそれぞれ形成して、地域の中で折衝を繰り返している。そうしたなかで、ペンシルバニア州は、狩猟者に対して狩猟可能地域をより広く設定することを目的として、土地所有者に各種の働きかけをしている。そこで、(1)なかでも、ハンター・アクセス・プログラムは大きな貢献をしており、この政策と、その裏付けとなっているペンシルバニア州のRULWA(Recreational Use of Land and Water Law:1966 年制定)について紹介する。(2)次に、ペンシルバニア州では、判例や、狩猟者が関わる事件を介して、このRULWA の見直しもしてきている。すなわち、狩猟者コミュニティと土地所有者コミュニティとの間のコンセンサスを、制定法に織り込み、より適切な関係性を築こうとしているのである。よって、そうした模索の事例を紹介する。(3)そのうえで、日本法において、狩猟者と土地所有者の関係整備していく上で必要となってくる考え方(法理)と手法について若干の試論を行う。

(4)兵庫県の野生動物管理政策における政策評価の導入事例

上田剛平(兵庫県但馬県民局)

 今の日本の農林行政は獣害バブルに沸いている。議員立法により成立した鳥獣被害防止特措法が2008年に施行され、2009 年度より国が全国の市町村の野生鳥獣被害対策を支援する体制が整ったからだ。いまや毎年100 億円を超える公的資金が国によって投入されている。結果、投資に見合う効果があり、被害は減少に転じたのか?実はこの単純な質問に答えることは容易ではない。多くの地域で正確さに欠く費用対効果の算出があったと会計検査院も指摘している。
 この手の課題に対応するためには、政策評価理論を理解し、政策評価を政策のスキームに取り込むことが有効である。今回の発表では、兵庫県但馬県民局が独自に取り組んだ、地域住民が主体となった箱罠の捕獲効率向上を目指す事業に対し、政策評価理論を導入し、事業のPDCA サイクルを科学的に検討・検証した事例を紹介する。さらに獣害バブルを本当のバブルにしないために、野生動物管理政策の意思決定に対し科学者が果たすべき役割を議論する。


兵庫県但馬県民局朝来農林振興事務所


大会TS3
野生生物問題と地域社会との連携―集落・行政との連携事例―
Cooperation with regional community in the japanese wildlife management problem

オーガナイザー 山端 直人
YAMABATA, Naoto

キーワード:野生生物問題、地域社会、集落、行政、連携

1.テーマセッションの趣旨

昨今、社会問題化している鳥獣害の問題をはじめ、希少生物の保全活動や自然再生への取り組みなど一般には野生生物の問題と捉えられがちな問題は、実際には、それと接する人間社会との問題を内包することが再認識されている。野生生物問題が人間社会との関わりや軋轢を含む以上、その現場においてどのようにその関係を構築し、問題解決に尽力しているか、有用な事例を整理し共通の知見とすることは、今後の野生生物問題の解決やそのための人材育成において重要であると考えられる。そこで、本企画集会では、種々の野生生物問題に携わる現場の最前線で活動する研究者や技術者、行政担当者等が、どのような手法で地域社会や行政と連携・協同を行い、その問題解決に取り組んでいるか事例を挙げ、局面毎の効果的手法を協議し、今後の知見とする。

2.各発表内容の要旨

(1)兵庫県環境創造型農業の推進~コウノトリが教えてくれたもの~

西村いつき(兵庫県農政環境部農業改良課)

 兵庫県では、コウノトリという地域資源を見出し「コウノトリ育む農法」(以下育む農法)を確立して「コウノトリ育むお米」のブランド化により、コウノトリの野生復帰計画を農業振興に結び付けることができた。
 コウノトリが身近に舞うという地の利が、県の予算措置や農業者の協力と消費者の買い支えを促す追い風になったと言える。さらに国内外の多くの研究者が調査や共同研究に訪れ、最新情報が居ながらにして得られるようになっている。「コウノトリがいる地域だから農法の確立ができ面積確保も順調にできた。コウノトリがいない地域はどうすればいいんだ」という意見をよく耳にする。しかし、当初からコウノトリが地域に受け入れられ、地域資源として活用されていた訳ではない。コウノトリが安心して餌を啄む事のできる風景の意味をねばり強く地域の人々に訴え続け、多くの賛同者を掘り起こし活動を続けてきたことが、育む農法の確立やブランド化につながり、ひいては地域の値打ちを上げる事につながった。そしてやっと「環境と経済の共鳴」というスタイルが具現化する結果となった。

(2)集落ぐるみでのサル対策 ~軌道にのせるためのポイントと今後の課題~

澤田 誠吾(島根県中山間地域研究センター)

 島根県では、ニホンザルによる被害金額は減少傾向にはあるものの、農作物やカキ、クリなどの果樹への摂食害が各地で多発して問題となっている。これまでの対策は、場当たり的な捕獲に偏っていたため、効果をほとんど認めなかった。そこで、モデル集落を設けて、集落ぐるみのサル対策に取り組んだ。モデル集落の川本町中倉集落は、21 戸で65 歳以上の住民が半数を占める典型的な小規模・高齢化集落である。この取り組みを始めるに当たって、農家からは否定的な意見も多くて、集落がすぐにまとまったわけではない。まず、行政の担当者(県の鳥獣対策専門員、町役場の担当者)が足繁く集落に通って代表者(キーマン)と話し合った。また、集落の定例会に参加して、サル対策の研修会を行って、徐々に被害対策への合意形成を図った。そして、合意形成が大きく進展したきっかけが集落点検の実施であった。ここでは、ゼロからの集落との関わり方や集落での合意形成を図る上でのポイント、さらに今後の課題についても議論したい。

(3)滋賀県の獣害対策における普及活動の事例

山中 成元(滋賀県甲賀農業農村振興事務所)

 滋賀県の野生獣による農作物被害は、約1,000ha、4億円(H23)がピークであったが、現在では、被害面積で約40%減少してきている。その主な要因は、農地と森林との境界に施工した侵入防止柵が大部分の被害地域で網羅されたことによるが、一方で住民主体による被害防止活動が徐々に増えてきたことも無視できないと思われる。その背景には、県の普及組織が研究機関と協力しながら現場の最前線に立ち、集落環境点検から被害防止計画の作成、実践までを市町、JA等と連携し普及啓発してきたことや、近年では県が主催する地域人材育成講座の修了者が集落の先導役となって対策を進める事例も見られるようになってきたこと等が上げられる。また、普及指導員が従来の業務にしている特産育成等の中に獣害対策を織り交ぜて農家や関係機関へ普及活動を展開する動きが出きている。今後は集落ぐるみ対策による「守り」だけではなく、被害状況や農家(住民)の意向をふまえた様々な動機づけにより、「攻め」の農業、農村の活性化につなげていくことが求められる。

(4)地域づくりアクターとしての野生動物 −排除・利用・包摂−

中塚 雅也(神戸大学大学院農学研究科)

 農山村地域では,野生動物の多くが,生活環境,生産環境を悪化させる“有害”なものとしての認識が住民のなかで拡がっている。本来,農山村の豊かさを構成する要素の一つであるはずの野生動物は,排除されるべき対象となっている。その一方で,コウノトリのように,害鳥から益鳥へ“立場を変えた”ものもいる。本報告では,農村計画,地域づくり,という視点からそうした野生動物の戦略的な位置づけと今後のあり方について検討する。事例とするのは,兵庫県篠山市における現在進行形の二つの事例である。一つは,福住地区で進めている地区計画づくりである。この計画づくりでは,サルが構成員して名前を連ね,実際には,専門家が「口寄せ」することにしている。野生動物のアクターとしての認知を促すことを目指した事例である。もう一つは,畑地区での動物誘因食物の除去のためのイベント「さる×はた合戦」である。猿害対策として集落内に放置された柿を除去する作業をイベント化したものであり,地域活性化のアクターとしてサルを組み込んでいる。以上の,野生動物のアクター化の事例を通して,排除の論理から,利用,さらには包摂の論理へ戦略的に転換するための要点と課題を考察する。


三重県農業研究所