野生生物保護学会 野生生物保護学会
大会案内


 ホーム >最近の大会第8回大会 > 第8回大会要旨集 > 第8回要旨集 ポスター発表
ホーム
学会案内
刊行物案内
大会案内
 →最近の大会
 →第11回大会
 →第10回大会
 →第9回大会
 →第8回大会
  →大会プログラム
  →シンポジウム
  →大会要旨集
   →自由集会
   →口頭発表
   →ポスター発表
入会案内
リンク集

大会要旨集 ポスター発表


P1P2P3P4P5P6P7P8P9P10

P1

トキ(朱鷺)の逃走距離について

飯村 武
日本鳥類保護連盟

  1. まえがき

    逃走距離について沼田(生態学辞典,1974)は「動物はその天敵に出合ったとき一定の距離に達するまでは逃げず、この距離をHedlgerは逃走距離と呼んだ」と説明している。逃走距離の把握は野生鳥獣類の保護推進上重要である。ここではトキについての測定霊を報告する。

  2. 調査地及び測定方法

    調査地は中国陝西省洋県(秦嶺山脈南麓、面積3206q2)で、漢江の左岸に街区が形成されている。その北方一帯は水田で、トキは周辺の雑木林を「ねぐら」とし、漢江や水庫(溜池)などを採餌場として生活。野生のトキは2002年7月現在約150羽。
     筆者は1996年から2001年に、時期は8月,9月の中旬にトキの調査に携わり、逃走距離及び地元農夫等との関係の資料について各4例を得た。ただし、後者のうち、例1と例4は逃走距離調査に関連して得られた実態である。
     トキは観察者が近づくと採餌をやめ、やがて飛び立つ。この飛び立った位置と観察者との距離が逃走距離で、歩測(歩幅55p)または距離計で測定した。地元農夫等との関係は作業中の農夫等とトキとの距離の実態を記録した。

  3. 結果と考察

    逃走距離及び地元農夫等と関係は次のとおりである。

    1. 逃走距離関係

      例1。農業用水路で1羽が採餌、逃走距離(以下距離)は60m。例2。漢江右岸の中州で15羽が採餌、距離は90m。例3。漢江左岸の中州で9羽が採餌、距離は70m。例4。農業用水路水庫の河川源流で5羽が採餌、距離は60m。

    2. 地元農夫等との関係

      例1。農業用水路左岸の農道は農作業者等が頻繁に往来し、最至近は約20mであるが、トキは平常で採餌。例2。農業用水路の土手を1人の農婦が背負子を背に約40mまで接近したが、トキは平常で採餌。例3。狐魂廟集落の屋敷林はトキ6羽のねぐら。ねぐら直下で農作業、距離は30m。例4。漢江左岸の中州でトキ9羽が採餌。その手前20mの流れで農夫が7頭の水牛の手入れ。トキは平常。
      逃走距離は60〜90mで、平均は72.5m。これらに対し、地元農夫等との関係は20〜40mで平均は27.5m。その値は小さく、トキと地元農夫等間では深い親和的関係にあることが示されていた。なお、逃走反応の生起要因としては観察者の数、騒音、衣服の色合いなどが考えられた。

コンタクトオーサー
飯村 武 日本鳥類保護連盟
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

P2

岩手県中部の農地とその周辺の繁殖鳥類群集

>1*鈴木 祥悟・由井 正敏・青山 一郎
森林総合研究所東北支所・岩手県立大学・東北森林管理局青森分局

 岩手県盛岡市北部には、独立行政法人農業技術研究機構所管の畑地、水田や果樹園などが広がっているが、当地域の潜在植生はオオバクロモジ−ミズナラ群集であり、本来は森林であったと考えられる。現在、農業による土地利用は集約化・高度化が進み、当然の事ながら本来そこに生息していた森林性の生物群集が維持されているとは考えられない。今回は、農地およびそれを取り巻く土地利用形態の違いにより繁殖期の鳥類群集がどのようになっているかを調査したので報告する。
 調査は、東北農業研究センターの水田、畑地とそれに隣接するアカマツ並木と広葉樹林、果樹研究所の果樹園、森林総合研究所の小面積のアカマツ林について、繁殖期にプロットセンサス法による調査を行い繁殖鳥類群集を明らかにした。また、本来の森林の状態に近いと考えられる、盛岡市の北に隣接する滝沢村にある岩手大学滝沢演習林(コナラを主とした広葉樹林)と岩手県森林公園野鳥観察の森(アカマツと広葉樹の混交林)の、なわばり記図法により明らかにした繁殖鳥類群集との比較を行った。
 出現種数は、森林が21〜27種であったのに対して、水田1種、畑地5〜10種、果樹園6種、アカマツ並木など樹林を含む箇所では8〜13種であり、水田では畦畔にヒバリが出現しただけであった。優占種は、森林ではシジュウカラ、ヒヨドリやキビタキであるが、畑地ではスズメ、ヒバリやカワラヒワ、果樹園ではカワラヒワ、コムクドリ、シジュウカラなどで、農作物を加害する鳥類の割合は、森林の17〜25%に対し畑地で46〜77%、果樹園で58%であった。種多様度(シャノン関数H’)は、森林の3.72〜4.15に対し畑地で2.20〜2.63、果樹園で2.36であり、樹林を含む箇所では2.70〜3.12であった。各群集間の優占度構成の類似性をみるために木元の類似度指数Cπを求めたところ、農地と森林の繁殖鳥類群集の類似性は低かった。

コンタクトオーサー
鈴木祥悟 森林総合研究所東北支所
岩手県盛岡市下厨川字鍋屋敷92-25
Tel:019-648-3963
E-mail:syogo@ffpri.affrc.go.jpp

P3

イノシシの果樹園の利用実態

1 *上田 弘則・姜 兆文
山梨県環境科学研究所・日本科学技術振興財団

 近年日本各地でイノシシによる農作物被害が大きな問題になっている。山梨県でも同様に中山間農業地域を中心とした広い範囲でイノシシによる農作物被害が発生している。中でもスモモ・モモなどへの果樹への被害は深刻である。しかし、その一方で、イノシシの果樹園の利用状況についての情報が不足している。
 そこで、本研究ではイノシシによる果樹園の利用実態を明らかにすることを目的としている。調査は、山梨県東八代郡一宮町という県内でも有数なモモ・スモモの産地で行った。この地域でも、近年放棄果樹園が増加しており、特に山際の果樹園を中心にモモ・スモモへのイノシシによる被害が発生している。
 山際の果樹園(2ヶ所)と放棄果樹園(1ヶ所)に試験地を設定して、赤外線自動撮影カメラを用いてイノシシの出現頻度を記録した。調査は2002年6月から12月まで行った。
 イノシシはスモモ・モモの果実が利用可能な7, 8月に出現頻度が高かった。それ以降も出現頻度は低いが、12月まで放棄果樹園では定期的に、他の果樹園では断続的に出没が確認され、掘り起こしの痕跡がみられた。放棄果樹園と他の果樹園の出現頻度を比較すると、放棄果樹園は他の果樹園に比べて出現頻度が高かった。放棄果樹園は放棄後も果樹の実がなるために好適な餌場となっていた可能性がある。
 次に撮影された写真を元にメスとオスを判別し、出没個体の性比を明らかにした。乳房の発達、当歳仔の有無、牙の有無、睾丸の発達から性別の判別を行った。体の一部しか写真に写っておらず性別の判別のつかないものについては除外した。その結果、いずれの場所でも性比はメスに偏っていた。次にメスの内で当歳仔を連れている割合についてみてみた。当歳仔といっしょに写真に写っているメスおよび単独で写っていても乳房の発達したメスを当歳仔を連れているメスとしてカウントした。その割合は放棄果樹園で7割程度であった。以上の結果から、イノシシの当歳仔を連れたメスグループを中心に山際の果樹園が利用されいることが明らかになった。

コンタクトオーサー
上田弘則 山梨県環境科学研究所動物生態学研究室
山梨県富士吉田市上吉田字剣丸尾5597-1
Tel:0555-72-6191
E-mail:hueda@msv.yies.pref.yamanashi.jp

P4

赤外線センサーカメラによるシカの土地利用と密度の推定

*1金子 賢太郎・1,2李 玉春・1小金澤 正昭
1宇都宮大学農学部・2中国海南師範学院

はじめに:近年日本各地でニホンジカの個体数増加が原因と考えられる農林業被害や、貴重な自然植生への強すぎる採食圧が問題となっている。このため、各地で個体数調整が行われており、その一環として様々な方法で個体数調査が実施されている。本研究では24時間調査可能な赤外線センサーカメラを用いた調査方法の開発を目的とし、シカの土地利用と密度の推定の可能性について検討した。

調査地と方法:調査は栃木県奥日光の市道1002号線沿い(約9km)で行った。センサーカメラ(GOODSON & ASSOCIATES社製 TM1500)を2001年9〜12月は市道沿いに、250m間隔に25地点の設置候補地を設定し、道から30m離れた場所に毎月ランダムに9台設置した。2002年は6・7月に小田代原と千手ヶ浜に750×750mの方形区を正方形に9等分し、各セルの中心を設置候補地としてそのうち7箇所にランダムに設置した。カメラは日没を基準とし、12時間稼動させた。結果の比較のためにライトセンサスを01年は5〜12月、02年は4〜8月に計57日間同市道沿いで実施した。

結果と考察:ライトセンサスにより推定した密度は5〜6月と9〜10月にピークを持つ、二山形の変化を示した。月別密度に有意差(χ2,p<0.001)がみられ、本調査地では明らかに出現個体数に月変化があることがわかった。センサーカメラにより推定した撮影頭数/CNは01年10月と02年6月で最も多く撮影された。どちらの方法でも6・10月に多くカウントされ、本調査地はこの時期に最も多くシカに利用されることが分かった。これはシカの季節移動及び、交尾発情期における密度の変化と考えられる。
 撮影頭数/CNとライトセンサスによる月別密度との間に相関がみられた(r=0.967、p<0.001)。このことから撮影頭数は密度推定のためのパラメータとして用いることができると思われる。
 撮影頭数から密度を推定するために、林(1985)のINTGEP法を応用した。これにより本調査地におけるシカの生息数を相対密度として算出した。その結果をライトセンサスにより推定した密度と比較したところ順位相関係数(rs=1.0、p<0.05)に有意な相関が認められた。このことから、野生動物の密度を推定するためにセンサーカメラを用いた方法が利用できる可能性が示唆された。

コンタクトオーサー
金子賢太郎 宇都宮大学農学部
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

P5

関東地方南部のニホンジカ地域個体群の遺伝的多様性について

*1湯浅 卓・1 古林 賢恒・2 玉手 英利
1東京農工大・2石巻専修大学

 一般的に生息地の分断化や孤立化に伴う遺伝的多様性の低下は、個体群の存続可能性に大きな影響を与えると考えられている。ニホンジカに関しては、これまで13地域の個体群を対象に、地域個体群が持つ遺伝的多様性が明らかにされてきた(Nagata et al.1999、Goodman et al.2001)。その結果、過去に個体群がボトルネックを経験している北海道のニホンジカ個体群では、個体数において圧倒的に上回る房総半島のシカ個体群より遺伝的多様性が低いことなどが明らかにされている(Nagata et al.1998)。このことは、一度ボトルネックが起こると個体数が回復していても、遺伝的多様性はその影響を強く受け、回復しにくいことを示唆している。このように全国規模で、現在のニホンジカ地域個体群が保持している遺伝的多様性が把握されつつあるなかで、関東地方南部の神奈川県丹沢山地や、その周辺地域である山梨県、静岡県、東京都などにまたがるシカの分布域では、遺伝的多様性の現状の把握さえ十分に行われているとは言えない状況である。これらの地域でも、今後、ニホンジカ地域個体群を対象とした特定鳥獣保護管理計画に基づき、個体数調整が行われていくことが予想される。将来的に個体数調整が、ニホンジカ地域個体群の遺伝的多様性に及ぼす影響を評価するためにも、まず現時点でのニホンジカ個体群の遺伝的多様性を早急に明らかにすることが必要不可欠である。そこで本研究では、神奈川県丹沢山地、山梨県および静岡県の富士山麓、静岡県伊豆半島、山梨県の身延山地および八ヶ岳、東京都奥多摩地域のニホンジカ個体群の遺伝的多様性について明らかにすることとした。遺伝マーカーには、核DNA上の遺伝マーカーであるマイクロサテライト遺伝子座を用い、8種類のマイクロサテライト遺伝子座のヘテロ接合度を用いて遺伝的多様性を評価した。

コンタクトオーサー
湯浅卓 東京農工大学
〒183-8509 府中市幸町3-5-8
Tel:042-367-5746
E-mail:yuasa@cc.tuat.ac.jp

P6

島根県弥山山地におけるニホンジカの生息地選択

山本 拓史・小金澤 正昭
宇都宮大学農学部

  • はじめに 島根県弥山山地のニホンジカは周辺地域と隔離された孤立個体群である。この個体群を管理していくのにあたり、農林業被害を最小限に抑える個体数管理を前提として、現在の区域でのシカの生息地の確保を図らなければならない。以上のことを検討するため本研究では、生息地として利用されている植生とシカの生息分布の関係を検証する。U.調査地および方法 調査は島根県北東部の島根半島西部に位置する弥山山地でおこなった。周辺は海と川に囲まれ、さらに南側は民家や田畑が広がっている。本山地は南よりに主稜線が東西に連なっており、傾斜が30度以上の急峻な地形が広く分布している。本山地の北側はコナラなどの広葉樹林、南側はアカマツのマツ林が広く分布している。シカの密度は平成12年度冬期に本調査地で島根県が行った区画法のデータより推定した。植生調査は、当地域の植生を代表するアカマツ林、スギ人工林、落葉広葉樹林を選抜し、10×10mの方形区を設置した。その方形区内の種類組成、胸高直径、群落高、被度を記録した。解析は、シカの生息地選択を評価するために区画法による密度分布調査から得られた区画毎の環境カテゴリー別頭数と区画法調査地の植生分布を比較した。環境カテゴリーはマツ林、スギ・ヒノキ林、広葉樹林、その他の計4つに区分した。
  • 結果と考察 本山地のシカの密度は11.25±8.17頭/q2推定頭数690頭であった。シカの密度分布は主稜線を境に比較したところ、有意差が認められ(UCal=18、P<0.05)、南側は高密度の分布をしていた。生息地の解析結果はマツ林が面積比率で42%と最も高かった。シカの出現頭数はマツ林で91頭と最も多かった。しかし、この分布の有意差はでなかった(χ2cal=6.472、ns、df=4)。植生調査の結果から、アカマツ林は、出現種数35種と他の林より多く、下層植生においても嗜好性の弱い植物種が29%と相対的に低かった。今回の調査でシカの植生に対する明瞭な選択性を見出せなかった。しかし、いま弥山山地で高密度状態にあるシカは本山地の南側に高密度で分布していること、マツ林も南側に広く拡がっていていること、下層植生が比較的多く現存することからアカマツ林を多く利用している可能性がある。

コンタクトオーサー
山本拓史 宇都宮大学農学部
(連絡先) 野生生物保護学会第8回大会事務局
 〒329-2441 栃木県塩谷郡塩谷町船生7556 宇都宮大学農学部附属演習林
  Tel & Fax: 0287-47-1185
  E-mail:masaakik@cc.utsunomiya-u.ac.jp

P7

野生動物保護管理計画後の石川県のツキノワグマ捕獲個体について

野崎 英吉
石川県白山自然保護センター

 石川県では平成14年度の特定鳥獣保護管理計画実施を前提に、平成12年度から任意計画として石川県野生動物保護管理計画を試行してきた。
 その中で、ツキノワグマの保護管理の手法として、保護管理のための地域区分と捕獲数制限を実施した。保護管理のための地域区分は、保護地域、緩衝地域、排除地域の3区分とした。保護地域は、従来の鳥獣保護区を準用し、排除地域は集落及びその周辺の農地、被害の発生している植林地とし、保護区と排除地域の中間に緩衝地域をもうけた設定とした。また、捕獲数は推定生息数の10%以内としている。なお生息数の推定は、平成7年から9年までの3年間かけて県下27カ所で直接観察による密度調査を実施し、生息面積に乗して算出したもので、500から600頭である。
 保護管理計画策定以前の捕獲は、有害鳥獣駆除として鳥獣保護区内でも春の予察駆除を実施していた。平成12年度以降、鳥獣保護区内での捕獲を全面禁止したことによる捕獲個体の性、年齢の変化について考察する。

コンタクトオーサー
野崎英吉 石川県白山自然保護センター
〒920-2326 石川県石川郡吉野谷村字木滑ヌ4
Tel:0761-95-5321
E-mail:enoz@pref.ishikawa.jp

P8

西表島産3種小型コウモリ類の採餌環境

1前田 喜四雄・2橋本 肇・2田村 常雄
1奈良教育大学・2NPO法人東洋蝙蝠研究所

コンタクトオーサー
前田喜四雄 奈良教育大学
〒630-8528 奈良市高畑町

P9

オオムラサキ越冬幼虫個体群の動態調査

渡辺 通人
河口湖フィールドセンター 自然共生研究室

 環境省RDB準絶滅危惧種に指定され、全国的に個体数が減少しているオオムラサキの越冬幼虫の分布とその個体群動態を知り、越冬幼虫個体群と成虫個体群の相互関係を明らかにする目的で、山梨県北部茅ヶ岳西麓の2地区で調査を行った。地区は渡邊(2000)で報告したオオムラサキ成虫の調査地とほぼ同じ範囲で1999年12月から2001年4月の2シーズン、地区は地区から約2km西の雑木林で2000年12月から2001年4月の1シーズン、ほぼ月1回のペースで調査を行った。
 1999年度は地区全体を踏査し、エノキの大木が見つかったA〜Cの3地点で調査を行った。その結果、A・B地点では発見個体数は多いものの個体数変動が大きく、C地点では個体数は多くないものの変動は少ないことがわかった。
 2000年度は、前年度地区で最も個体数変動の少なかったC地点と、地区よりエノキが多く密度も高い地区で同じ根際から6本のエノキが密生しているD地点とで調査を行った。C地点では最大17頭が、D地点では最大71頭が確認された。12月から4月にかけての個体数の減少率はC地点では59%であったが、D地点では79%と大きかった。また、C地点ではオオムラサキの幼虫だけしか見つからなかったが、D地点では最大18頭のゴマダラチョウ幼虫も同時に見つかった。
 両年ともに越冬期間中に移動があるかないかを確認するために、幼虫が見つかった葉にペイントマーカーを使って日毎に違う色で数字を記入し、その数字付の葉の移動も調査した。その結果、数字付き葉での次回幼虫発見率は、1999年度A地点7%・B地点0%・C地点0.4%で、2000年度はC地点14.6%・D地点11.4%であった。
 2000年度には、数字付の葉の中で2回目に幼虫の見つからなかった葉と2回目も幼虫が見つかった葉の移動距離を比較してみると、11〜12月を除いて2回目も幼虫が見つかった葉の方が明らかに移動距離が短かった。また、幼虫の頭部に直接マーキングすることによってD地点で15頭の移動を調べたが、翌月以降に再確認された5頭8例は全て移動しており、その移動距離の平均は20.8cmであった。
 これらの結果と、幼虫の分布位置の季節変動から、越冬中の幼虫の行動と越冬幼虫個体群の大きさについて考察したい。

コンタクトオーサー
渡邊通人 NPO富士自然保護研究所
〒401-0301 山梨県南都留郡河口湖町船津字胎内6603
河口湖フィールドセンター 自然共生研究室
TEL & FAX:0555-20-3510
E-mail:Mich2530@aol.com

P10

富士山における野生動物の高標高の利用と人間の関係

*1奥村 忠誠・2北原 正彦・2上田 弘則・2渡邊 牧
1野生動物保護管理事務所・2山梨県環境科学研究所

 古より富士山は信仰の山として特定の人々に利用されていたが、近年は信仰だけでなく多くの一般の観光客に利用されてきている。その数は年間 万人といわれ、その過剰利用による環境破壊が問題となっている。五合目以上の登山道においても登山者の出すゴミや山小屋のゴミが多く見られ、特に山小屋の出すゴミは多量で集中しているため、自然環境に与えるその影響も大きいものと考えられる。そこで、本研究では野生動物と人の関係を解明し、さらに、人の出すゴミがどのような影響を与えているかを知ることを目的に調査を行なった。
 方法は2000年に富士山の4つの登山道沿いにある山小屋などへ、野生動物を見ることはあるか、いつ頃見るかなどの聞き取り調査を行なった。さらに、その結果を検証する意味も含め、翌年の2001年7月、9月、11月には、自動撮影装置を五合目から七合目半の間に約2週間設置し、種の確認とゴミへの餌付き状況を確認した。
 その結果、聞き取りは、五合目から山頂の富士測候所の間で行ない、中型食肉目6種を含む15種の哺乳類が確認された。特に、五合目付近から八合目付近まではニホンテンやハクビシン、ニホンジカなどの中大型哺乳類が複数種確認されたが、九合目では目撃情報は得られなかった。また、山頂での目撃は一時的なものであり、定着個体や繁殖個体がいるという情報は得られなかった。人為への依存では、五合目付近でオコジョが山小屋の冬期閉鎖時に換気扇等から侵入し、室内の食物を荒らすことやキツネの残飯あさりが確認された。また、これらの哺乳類を目撃する時期は観光シーズン前後が一番多く、シーズン中と冬はあまり確認されていなかった。
 自動撮影の結果ではキツネ、テン、ノウサギ、ネズミ類を確認した。ただし、7月にはどの地点においても哺乳類を確認することはできなかった。9月では五合目から6合目にかけて、テンを確認した。また、7合目半の山小屋のゴミ捨て場地点でキツネを確認した。11月には五合目付近においてテンを、七合目半の地点でキツネを確認した。
 これらの結果から、富士山に生息する野生動物は山頂までの地域を一時的とはいえ利用しており、その利用形態は人間活動のある時期や場所を避けると同時に、人間の残した残飯などを得ながら生活していることがわかった。また、山小屋の出す残飯が野生動物の生息に少なからず影響を与え、キツネなどが高標高へ生息する一要因になっていると推測された。

コンタクトオーサー
奥村忠誠 (株)野生動物保護管理事務所
川崎市多摩区布田5−8
Tel:044-945-3012
E-mail:okumura@wmo.co.jp

(C) 2003.10 野生生物保護学会
許可なく転載・複製することを禁止します。 All rights reserved.